無限反復指数関数の積分

以下の関数は、Infinite Power TowerやIterated Exponentialと呼ばれる関数です。日本語での定まった名称はありませんが、ここでは無限反復指数関数と呼ぶことにします。

y=x^{x^{x^{x\cdots}}}

一見不気味なこの関数ですが、実は e^{-e}\leqq x \leqq e^{\frac{1}{e}} の範囲で収束することが知られており、その収束値は

\displaystyle x^{x^{x\cdots}}=\frac{W(-\ln x)}{-\ln x}

です。ただし W(x) はランベルトのW関数( y=xe^x の逆関数)です。

ランベルトのW関数

また、y=x^{x^{x\cdots}} (e^{-e}\leqq x \leqq e^{\frac{1}{e}}) のグラフは以下の通りです。

 

積分を求めてみる

この関数を収束範囲いっぱいで積分してみます。
つまり \displaystyle \int_{e^{-e}}^{e^{\frac{1}{e}}} x^{x^{x\cdots}} dx を求めてみます。

以下、 f(x)=x^{x^{x\cdots}} として、f(x)逆関数を求めてそれを利用します。

y=x^{x^{x\cdots}}

は、xの上に再び y(=x^{x^{x\cdots}}) が乗っていると考えることが出来るので、

y=x^y

をみたします。
これをxについて解くと、

x=y^{\frac{1}{y}}

xとyを入れ替えると、

y=x^{\frac{1}{x}}
\ \ =\sqrt[x]{x}

これがf(x)逆関数です。

グラフを書いてみましょう。
青線が y=f(x) (e^{-e}\leqq x \leqq e^{\frac{1}{e}})、赤線がその逆関数 y=x^{\frac{1}{x}} (\frac{1}{e}\leqq x \leqq e) で、青い部分が求めたい面積(定積分)です。



青い部分の面積は、以下の赤い部分の面積に等しいです。



グラフより、赤い部分の面積は以下のように求まります。

(赤い部分の面積) = ( e\times e^{\frac{1}{e}} の長方形) - ( \frac{1}{e}\times e^{-e} の長方形) - (y=x^{\frac{1}{x}}\frac{1}{e}\leqq x \leqq e での面積)

よって
\displaystyle \int_{e^{-e}}^{e^{\frac{1}{e}}} x^{x^{x\cdots}} dx=e^{\frac{1}{e}+1}-e^{-e-1}-\int_{\frac{1}{e}}^{e}\sqrt[x]{x}\,dx


となります。これをDesmosで数値計算すると、以下のような結果となりました。

仕様で小数第12位以下は省略されています。
別のアプローチ

冒頭で紹介した収束値 \displaystyle x^{x^{x\cdots}}=\frac{W(-\ln x)}{-\ln x} を用いて計算してみます。

つまり、\displaystyle\int_{e^{-e}}^{e^{\frac{1}{e}}}\frac{W(-\ln x)}{-\ln x}\,dx を求めるわけですが、ランベルトのW関数 W(x) はDesmosに実装されていないし、Wolfram Alphaにこの式をそのままぶち込むとエラーを吐くので、置換します。

以下の W(x) の性質を用います。

W(x)e^{W(x)}=x,\,W(e)=1,\, W(-1/e)=-1

いずれも W(x) の定義より明らかです。

t=W(-\ln x) とすると、-\ln x=te^t\,\Leftrightarrow\,\displaystyle x=e^{-te^t} となります。

W(-\ln e^{-e})=W(e)=1,\,W(-\ln e^{\frac{1}{e}})=W(-1/e)=-1 なので、
積分区間e^{-e}\rightarrow e^{\frac{1}{e}} から 1\rightarrow -1となります。よって、

\begin{align}\displaystyle\int_{e^{-e}}^{e^{\frac{1}{e}}}\frac{W(-\ln x)}{-\ln x}\,dx&=\int_1^{-1} \frac{t}{te^t}(e^{-te^t})'\,dt\\
&=\int_1^{-1} \frac{t}{te^t}(-(1+t)e^{t-te^t})\,dt\\
&=\int_{-1}^1 (1+t)e^{-te^t}\,dt\end{align}

となります。
これならば、以下のようにDesmosやWolfram Alphaでも計算可能です。
逆関数を用いて計算したときの値と一致していますね。




また、前回求めた公式を使うと以下のように表せます。


\displaystyle{\int_{e^{-e}}^{e^{\frac{1}{e}}} x^{x^{x\cdots}} dx\\=e^{\frac{1}{e}+1}-e^{-e-1}-\int_{\frac{1}{e}}^{e}\sqrt[x]{x}\,dx\\
=e(e^{\frac{1}{e}}-1)+\frac{1}{e}(1-e^{-e})-\sum_{n=1}^\infty\sum_{k=0}^{n+1}\frac{(-1)^ke^n-e^{-n}}{k!n^{n+2-k}}\\
=e(e^{\frac{1}{e}}-1)+\frac{1}{e}(1-e^{-e})-\sum_{n=1}^\infty\frac{\Gamma(n+2,-n)-\Gamma(n+2,n)}{n^{n+2}(n+1)!}\\
=e(e^{\frac{1}{e}}-1)+\frac{1}{e}(1-e^{-e})-\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n^{n+2}(n+1)!}\int_{-n}^nt^{n+1}e^{-t}dt\\
\approx 1.24413130065}

一般化

最初の逆関数を用いた求め方には、実は以下の関数等式が背景にあります。

\displaystyle{\int_b^cf(x)\,dx+\int_{f(b)}^{f(c)}f^{-1}(y)\,dy=cf(c)-bf(b)}


この等式を利用すると、積分範囲を一般化することが出来ます。

先程と同様に f(x)=x^{x^{x\cdots}} とすると、f^{-1}(x)=\sqrt[x]{x}

f(x) の値域及び f^{-1}(x) の定義域は \frac{1}{e}\leq x\leq {e}

a を実数 (\frac{1}{e}\leq a\leq {e}) とすると
f^{-1}(a)=a^\frac{1}{a} より、f(a^\frac{1}{a})=a
f^{-1}(\frac{1}{a})=a^{-a} より、f(a^{-a})=\frac{1}{a}

b=a^{-a},\ c=a^\frac{1}{a} を等式に代入すると

\displaystyle{\int_{a^{-a}}^{a^\frac{1}{a}}x^{x^{x\cdots}}\,dx+\int_{\frac{1}{a}}^{a}\sqrt[y]{y}\,dy=a^\frac{1}{a}\cdot a-a^{-a}\cdot \frac{1}{a}}

すなわち

\displaystyle{\int_{a^{-a}}^{a^\frac{1}{a}}x^{x^{x\cdots}}\,dx=a^{\frac{1}{a}+1}-a^{-a-1}-\int_{\frac{1}{a}}^{a}\sqrt[x]{x}\,dx}
 (\frac{1}{e}\leq a\leq {e})

となります。